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しんこざいくれんがのみちすじ
新古細句銀座通
岸田 劉生
「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月24日~6月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,580 字 · 45 页
おもいで(三)
全くこの正さんの顔はむずかしい顔であった。木ぼりのえんまさんとよく皆がいったが、きちんと端座して一と処をみつめた顔は正にその通りである。うちの万吉という薬を調合する男が正さんの家の近くに住んでいて正さんとは仲よしらしかったが、この老人も私の子供の中になくなったとみえいつかいなくなってしまった。
夜店で一ところ人気のあったのは、何だか知らぬが、卵の白みから作ったとかいう化粧液を売る眼のギョロッとした立派な八字髯を生やした男である。実に不思議な音声とふし廻しと言葉とでその化粧液の効能をのべていたが、私はこの男のせりふがすきで出ていると必ず永く立って聞いていたものだった。この男はまだ健在で今は長大なピンセットで紙の将棋の駒を動かしながら「何とかして角べろりん」などと例のふし廻しでしゃべりながら将棋の必勝か何かの本を売っているが、銀座では見かけない。
おもいで(三)
銀座の縁日といえば七日、十八日、二十九日と十日毎に一日ずつ出世する出世地蔵が有名である。昔は銀座四丁目の角から三十間堀の方へずらりと出たもので私はぶどう餅が大の好物でそれも亥之助のでないといけないなどと通をふり廻したものである。