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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「よせやい。よせやい」
日吉は顔を逃げながら猫へいった。彼は、猫はあまり好きでなかった。けれど今、彼にこんな親しみを示してくれるものは猫しかなかった。
「あら……?」
ふと、日吉は耳をそばだてた。小猫の眼も、びっくりしていた。そこからすぐ向うに縁先の見える部屋から、病人の癇だかい呶鳴り声がふいにしたからである。
――と、やがて台所へ、おえつが眼を泣き腫した顔して退って来た。何か、良人の気を損ねたのであろう。煎薬の土瓶をこん炉へかけながら袖口で涙をふいていた。
「叔母さん……」
気を遣いながら、日吉は猫の背をなでながらいった。
「この猫、腹が減って、顫えているよ。ご飯をやらないと、死んじまう……」
実は自分の空腹をも、訴えているのであった。けれど彼女は、猫の御飯どころか――と、
「おまえ、まだそんな所にいたのかえ。陽が暮れても、家には泊めておかれないのですよ」
といって、また、袖に涙の目をかくした。
薬を煎じながら、つきつめた胸をひとり抱いて、泣いている若い叔母のすがたには、二、三年前の幸福そうな、新妻の美しさはもう、雨にたたかれた花みたいに褪せている。
猫を抱いて、猫と共に、飢えと寝床に行きはぐれていた日吉は、