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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

その彼が、

(――今朝は甥を斬らねばならない!)

と今、胸をすえている。

だが決して、気のすすむ顔色ではなかった。告げに来た小者が去っても、彼は鍛冶小屋の前に立って、いつまでも、国吉と弟子の仕事ぶりをながめていた。

「――無理もない。何せい、鉄砲が渡来したのも、天文十二年、つい七、八年前のことだからな。それ以来、諸国の武家豪族どもが争って、この新武器の製作を計ってみたり、或いは、蛮船から買い入れようと競っているが――この尾州あたりはまだ地の利を得ておるものの――甲州、越後、奥州あたりの山武士のうちには、鉄砲とはどんな物か、まだ見たこともない者が多かろう。――職人にしても、手馴れぬのは当りまえだ。急がずともよい、みっしり工夫を積んで、つくり出したら、いくらでもつくれるよう、他日の備えに間に合えば――」

そこへまた、さっきの取次が、

「お頭様」

と、小道の露に身を屈めて、彼の足を促しに来た。

「もう御一同、書院にお揃いなされて、お待ち申しておりますが」

小六は、振り向いて、

「今、行く」

「は」

「すぐ参るから、待たせておけばよい」

「はい」

取次の小者は、多くをいうことも出来ず、引き返して行った。