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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

大きな子に、撥ねとばされたのである。

転んだ上を、またほかの子が踏んづけた。日吉は、その足を掬って、

「――捕った者ンの蜂だぞ。捕ったら捕った者ンの蜂だい」

と、宣言して、敏捷に先へ駈けた。

そして、宙へ飛ぶと、その手の中に蜂をつかんでいた。

「やあい、おらの物ンだ」

日吉は、蜂を握って、十歩ほど先へ行ってから掌をひらいた。蜂の首と、羽をいで、すぐ口へ入れてしまった。

蜂の腹は、甘い蜜の袋である。砂糖などの味を知らない少年の舌には、天地にこんな美味い物があろうかと思われるのだった。

「……アア、甘え」

日吉は、眼をほそくして、蜜が喉をながれ込んでも、何度も舌を鳴らしていた。

「…………」

ほかの連中は、羨ましげに、彼の表情を唾を溜めて眺めていた。蜂はいくらも飛んでるが、朝鮮蜂は少ないのだ。その口惜しさがこみあげて、

「猿」

と、大きな童がいった。仁王と綽名のある少年である。

仁王だけには、日吉も敵わなかった。それを知っているので、みな尾について、

「えて坊」

「猿やい」

「さる。さる。さる」

と、いちばんチビの於福までいった。

於福は、数え年九ツというが、七歳の日吉とそう違わなかった。