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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「なんで、迷惑そうな顔するのじゃ」

「でも……」

「汝が二の足をふむのは分っておるが、きょうの使いは、茶わん屋の旧蔵だった水挿を、無事に戻して遣わすので行くのだ。で、汝を付けてやれば、汝の顔もよかろうと思っていいつけるのじゃ。行ってこい」

日吉は、そう聞くと、土の上に坐り直して、両手をついた。

「ありがとうございます。御恩は忘れません。欣んで行って参ります」

茶わん屋へ着いた。

彼は、供として来たので、家の外で待っていた。

以前の朋輩が、

「猿が来た」

と、怪訝がって、かわるがわる、覗きに来た。

日吉がこの家を追い出された時、笑ったり、打ったりした奉公人の顔も見えたが、日吉は忘れてしまったもののように、

「こんちは。――今日は」

と、その顔のどれへも、笑顔を見せながら、陽なたに蹲って、松原内匠が帰るのを待っていた。

やがて、内匠は、使いをすまして奥からもどって来た。思いがけない盗難の「赤絵の水挿」が返って来たので、茶わん屋の夫婦は、夢かとよろこび、使者の草履をそろえたり、夫婦して、門脇まで走り出て、なお、礼を繰り返したり、下へもおかない待遇だった。

於福もいた。