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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

と吩咐けた。

「はい」

馬糞掃除を担任すると、

「猿、ちょっと来い」

と、老侍が、

「担桶に、水を汲んで、方々の大瓶に漲っておけ」

と、いうし、

「薪を割れ」

と、いうので、薪を割っていると、何をしろ、かをしろと、召使ばかりが重宝に召使う。

「あいつ、膨れたことがないなあ。何をいいつけても怒らぬのが取柄だよ」

若侍たちは、一面、彼を玩具的に愛して、時々、物など投げ与えた。

だが、そのうちに、邸内でもその若手から先に、日吉に対して、

「あいつ、生意気だ」

「小理窟をこねる」

「殿へ諂う」

「ひとを小馬鹿にする」

などという反感が、次第に昂まって来た。

そういう若輩が、小さい落度を大声でいうので、松下嘉兵衛の耳にも、時々、猿の誹謗がきこえた。

が、嘉兵衛は、

「今に、あれは使える。まあ見ておれ」

近臣へいって、取り上げたこともなかった。

嘉兵衛の妻、嘉兵衛の子達は、猿よ猿よ、と気に入りだった。それがまた、邸内の軽輩には、よけいに快くなかった。

「なぜだろ?」

日吉は、爪を噛んで、考えた。

忠実に働きたがらない人間の中に交じって、ひとり忠実たろうとすることは、実に難しいと思った。