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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「この度は、当家の乞いをいれて、諸国武者修行の御途次を、お立ち寄り下され、忝うぞんずる。主人嘉兵衛儀は、折ふし、公用中にござれば、後刻、改めてご挨拶申すとのことにござります」
「ご丁寧に」
と、受けているのが、疋田小伯であろう。まだ三十歳前後の人物である。
「――必ずご斟酌くださるまい。今般は、伯父伊勢守が心入れにて、若輩のわれら、世上の修行なすべしと、遍歴の途にのぼり、先頃までは、今川殿のご好遇に甘んじ、今度はまた、同勢召し伴れて御当家のお世話になりに参った。もとより武辺者、逗留中は、何かの失礼も、偏えにご寛大に」
と、双方の挨拶。
門前の礼が一応すむと、
「お通りを」
と、出迎えが、列を開く。
「御免」
と、曳馬や荷をあずけ、十三名はぞろぞろと、邸内へはいった。
日吉はぼんやり眺めていた。そして、今の双方の挨拶を聞いて、
(兵法が大流行だから、兵法者もだんだん厳しくなった)
と、感心していた。
近頃、武者修行武者修行という声をしきりに聞く。それから、今まではそういわなかった剣術だの、槍術だのという言葉もよく聞く。
武田家の与族で、上州大胡の城主、伊勢守上泉秀綱の名は、わけて有名であった。