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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「おや。帰るのか」

「また、参ります」

「なにも、そう急に、帰らなくともいいじゃねえか。一晩ぐらいは、泊って行きな。――おれのいったことが、気に障ったのか」

「そんなことはございません」

「帰るなら、止めもしないが、早く、おふくろだけにでも、無事を見せてやんなよ」

「はい。見せてやります。……今夜は、中村へ帰ります」

「そうか。それならいいが」

と、乙若は、門口まで出て、日吉の姿を送ったが、心のうちでは、何か、いい気持がしなかった。

中村へ帰るといって乙若の家は出たが、その晩、日吉の姿は、中村の生家には戻っていなかった。

どこへ寝たか。

恐らく、路傍の辻堂か、寺の廂か、そんな所へ、野宿したのではあるまいか。

松下嘉兵衛から貰った金はあるはずだが、それは、乙若の家を訪ねる前の夜、中村の家の外まで行き、母の無事なすがたを垣間見、そっと投げ込んで来たので、身には一銭も持っていなかったし、――夏の短夜なのでどこに明かすも、夜はすぐに白みかけた。

――その日の、朝まだきである。

日吉のすがたは、西春日井の部落から枇杷島のほうへ向って、のそのそ歩いていた。

彼は、何か物を喰いながら歩いていた。