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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「じゃあ、弾正さんじゃろ」

「戦から帰って来た大勢の武者の中に交じってね、良い馬に乗ってたよ。――あれ、誰だい?」

「だから、今いうたでないか。光明寺の藪山に住んでいる弾正さんだよ」

「弾正さんて」

「御器所の妹の――許婚じゃがの」

「許婚って?」

「ま。執こい」

「だって、分んねえだもの」

「今に、夫婦になる、良人のことじゃがな」

「なアんだ。……じゃあ、おっ母の妹のお聟さんのことけ」

日吉は、何と解したか、クツクツ笑った。彼の母は、その白い歯と、小ましゃくれた唇を見ると、わが子ながら、早熟な――と小憎らしく思うのだった。

「おっ母。納屋ん中に、これっくらいな、刀があったろ」

「あるが、どうするのじゃ」

「貸してくんないか。どうせ、あんなボロ刀、お父っさんも、もう使やしないから」

「また。戦遊びか」

「……いいだろ」

「いけません」

「なぜ」

「百姓の子が、刀など、持ち馴れたとて、どうなろうぞ」

「おら、侍になるんだい」

日吉は、駄々ッ子足を踏んで、一文字に唇をむすんで云った。――彼の母は、じっと睨めすえているうちに、その眼を涙でいっぱいにしてしまった。

「……阿呆っ」

突然、そう叱ると、母はあわてて涙を拭き、片手に、彼の手を拉して、