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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

遥かに、さっきの市川大介が、それを見つけて、

「東軍の御大将、あれに流れついて在わすぞ、つつんで、生擒れや」

と指さした。

徒歩の兵が、

「御免ッ」

「御免」

云いつつ、しぶきを蹴立てて、信長の前面へ、駈けて来た。

信長は、渚の竹槍を拾って、ひとりの兵を、真っ向にたたき伏せ、次の群へ、抛りつけた時、

「寄せはせじ」

と、味方の一隊が、駈けつけて来て、彼の身辺を、敵から隔てた。

信長は、堤へ駈け上がると、

「弓、弓ッ」

鋭い声で呼んだ。

お小屋の幔幕のあたりから、小姓がふたり、矢と半弓を持って、転ぶように、すっ飛んで来た。

取るが早いか、

「この河、渡すな」

と、河原の兵を、叱咤しながら、一矢をつがえると、ぶつんと切って放ち、すぐまた、矢を噛ませては、びゅんと弦を翻した。

鏃のついてない稽古矢ではあるが、顔の真ん中を射られて、倒れる敵もあった。そして、彼一人が射ているとは思われぬ程、たくさんな矢が急射された。

射てる間に、弦が二度も断れた。断れるたび、弓を換えて、すぐにまた、射つづけた。

が、――そのうち。

必死でそこを支えている間に、上流の防ぎが崩れて、西軍の兵が、どっと堤へ駈けあがり、信長の休息小屋を、包囲して、鬨をあげた。