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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

すでに。

大玄関のほうでは、その頃、信長が式台を踏んでいた。

ここにも、斎藤家の家中、老臣から目見得格の若侍まで、百名以上、所せましと、平伏して出迎えていた。

「どこじゃ。休息の席は!」

水を打ったように、ひそまり返っている出迎えの中で、ふいに、足を止めた信長が、無遠慮な声で云ったので、

「はッ――」

と、上目越しの顔が、一斉にうごいた。

つつつと寄り添った斎藤家の家老堀田道空が、信長の足もとに平伏したまま。

「こちらで、何はともあれ、暫時の御休息を――」

指さして、

「彼方か」

「はッ、御案内申しあげます。――御免を」

屈み腰に。

信長の先に立ち、大玄関から右へ進み、橋廊下を渡る。

信長は、右を見、左を見、

「よい寺じゃなあ。見よ、藤の花が真盛りじゃ。――風が香う」

扇を胸にうごかしながら、自身の近侍たちと共に、一室へはいった。

休息の時間は約半刻ほどで、やがて信長は屏風の内から起った。

「御案内たのむ。舅殿にお目見得いたそう。山城どのには、いずれに在すかや」

見ると、

茶筅髪は、折髷に結い代えている。豹、虎の革の半袴は捨てて、正式の折目袴に、白綾の小袖、金糸の縫紋、そして濃い紫地に桐もようの裃を着け、帯びた小さ刀も、提げた太刀も、華奢な風雅男のすがただった。