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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

幸福の道を切り拓いてゆきます。信長公も――それから藤吉郎も行く末には」

「その気持はうれしいが、余り、功に逸っておくれでない。たとえそなたが、どれほど出世しようと、わしの欣びは、これ以上はない」

「では、御機嫌よう」

「もちっと、話して行かれぬのか」

「御奉公が大事ですから」

彼は黙って、母の莚へ、なにがしかの金を残して立った。そして頻りと、懐かしそうに、そこらの柿の木や、籬の菊や、裏の物置小屋などを、何度も見まわして帰って行った。

その年は、それきり来なかったが、年の暮には、足軽組の乙若が来て、

「藤吉郎から頼まれたが」

と、一反の織物と、金子と、母の薬とを入れた包を届けて来た。

その折、乙若の話には、

「今は、御小人組の端だが、二十歳にでもなれば、もちっと、お扶持も増されようし、御城下のお長屋にでも住むようになったら、母上を側へ呼ぶのだといっている。あの息子も、ずいぶん突拍子もないところもあるが、割合に人づきあいはよいとみえ、朋輩たちにも、そう嫌がられてはいないようだ。……何しろ、庄内川であんな無茶をしたにしては、生命びろいをしたようなものさ。運のいい男だよ」