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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

と、躍起になり、

「小癪な鹿毛」

と、競って行った。

五郎左という若侍は老臣の平手中務の子で、城内では鉄砲頭を勤め、優れた士のひとりだった。

先代信秀が、信長のために、傅役としておいた老臣の平手中務には、三人の男子があった。惣領が五郎左衛門、次男が監物、三男を甚左衛門といった。

信長の気性が、その時、無意識に駆りたてられていた。

追い抜かれる――

ひとに遅れをとる――

後塵を浴びる――

おくびにも、そういったことは、そのままではゆるされない彼の気性だった。

びゅッ、びゅッ。ふた鞭ほど、彼は、烈しい鞭を自分の駒の卯月に加えた。

もう老いかけてはいても、卯月も名馬である。

大地は、蹄に鳴り、卯月の蹄が、大地を蹴るのが見えないほど、迅い脚で駈け出した。

卯月の銀毛のような尾が、真ッ直ぐに風を曳いて、五郎左衛門の鹿毛のそばを、勢いよく駈け抜けて、前へ出たので、五郎左は、

「殿、殿、お馬の蹄が割れますぞ」

と、注意した。

すると信長は、

「五郎左、もう続けぬのか」

と、すこし揶揄していった。

五郎左もまだ二十四、五の若気であり、主人に上手のいえない士だった。心外な、という顔して、