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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「殿には、佐渡の気ぶりを、ご存じないのであろうか」
「ご存じあれば、よも那古屋の城を、お預けにはなるまい」
眉をひそめて、憂いあう家中の者のささやきを、藤吉郎も、一度や二度でなく耳にした。
が、藤吉郎は、
(はてな。こんどの寸法は、どう遊ばすお考えかな?)
とは思ったが、他の家中のような心配は、すこしも抱かなかった。
清洲の城で、いつも明るい顔は、孤君信長と、御小人仲間にいるひとりの草履取だけだった。
信長を、天性のうつけと見た先入観は、家臣の一部でも、なかなか脱けなかった。
林佐渡守、弟の美作守、そして柴田権六勝家などの重臣が、それだった。
「何。美濃の斎藤道三どのと、聟舅の初対面をなされた時の信長公の仕方は、なかなか平常のうつけとは違っていたとか。――はははは。あれはうつけの紛れ当りというもの。先が儀式張ってござったところへ、こちらが恐いもの知らずの無法と出たので、さすがの舅どのも、度胆を抜かれたまでのことよ。例にもいう。莫迦につける薬はないとな。その後の事々、御行状、どう眺めても、救いはない」
柴田権六などの観察はわけても徹底していた。所詮、将来性はないときめているので、そういう放言も、次第に大びらになっていた。