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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

木下殿が見えた」

「なんだ、木下殿とは」

「新たに、炭薪奉行になった木下藤吉郎殿。むずかしい顔して、見廻りに来たぞ」

「あ、あの猿か」

「灰をかけておけ。灰を」

若侍たちは、あわてて灰をかぶせたり、黒いのを、火消し壺へ入れたりして、仕すました顔していた。

「やあ、お揃いだな」

藤吉郎は、そこへ来ると、連中のあいだに割りこんで、自分も炉へ手をかざした。

「こんど、不肖藤吉郎が、炭薪奉行を仰せつかりました。どうかよろしく」

「や、それはどうも」

若侍たちは、むず痒い顔をし合った。藤吉郎は、炉に挿してある大きな金火箸を持って、

「ことしの冬は、ひどくお寒いではないか。このように火を埋けこんでおいては、手先ばかりで、体が温もらぬ」

と、自分で赤い火を掘り出して、

「そちらの炭籠の炭を、もっと存分に、つごうではないか。それから、今までは、一部屋について、一昼夜炭何貫と、お定めがあったそうだが、火の気の倹約は、寒々しい。十分にお使い下さい。そしていちいち部屋頭のお手判だの、何だのと、面倒な手数も御無用、お要用だけ炭倉へ取りにお越しください」

足軽や中間の小屋へ行っても、藤吉郎はその調子で、節約節約と、従来、やかましくのみいわれて、萎縮していた人々へ、大いに炭薪を使うことを、奨励してまわった。