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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「さ、帰ろう」

と、藤吉郎に促されて、商人たちは、ほっと生きた心地を取りもどした。そして口々に、

「驚いたなあ。こんどのお奉行には、うっかりできぬぞ」

「だが、分ったお方だ」

「今までのように、ぼろいわけにはゆかないが、といって、損はしない。まあ地道にやろう」

山を降りながら、囁き合っていた。

麓へ来ると、商人たちは、もう倉皇と帰りかけたが、藤吉郎は引きとめて、

「お役が終った。今夜はわしに従いて来い。わしも今夜は寛ぐであろう」

と町の旅舎へ、一同を引っ張って来て、ゆうべの返礼に、馳走を振舞い、お奉行の彼もいい機嫌に酔って、すっかり砕けたところを見せた。

米饅頭

彼は、愉快だった。

ひどく独りで悦に入っていた。

――というわけはその日、

「猿」

と、例によって信長に呼ばれ、信長からこういう言葉をうけたからだった。

「台所方は、そもそも、経済を旨とする所なのに、その台所に、そちのような奴を置くのは、大の不経済と申すものだ。以後厩方を申し付ける」

そして、知行三十貫、城下の侍小路に、宅地をもつかわす――という君恩を受けたのだった。

欣しかった。

彼は、欣しいことに出会うと、正直に欣しがる男だけに、独りニヤニヤと顔へ出て来るものをつつまれなかった。