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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
日吉は、それに対して、
「はい」
とか、
「へい」
とかしかいえないのだった。古くから来ている奉公人ほど、
「かしこまりましてござります」
と、額を板の間にすりつけていう程なのである。
那古屋や清洲の城下へは、のべつ使いにいった。その度に彼は、お城の白壁と高い石垣を仰いで、
「どんな人があの中に住んでるのだろ。――どうしたらあん中に住めるんだろ?」
と、漠として考えた。
虫ケラのように小さな惨めな自分が、幼稚な心の中にも、口惜しく思われるのだった。
そして陶器の荷を積んだ、重い手車を押しながら町を行くと、
「あれ。猿がゆく」
「猿が車を押して行く――」
などと被衣した麗人だの、都めかした町娘だの、若いきれいな御寮人たちが、囁いたり指さしたり、じろじろ眺めて行ったりした。
きれいな女と醜い女との見分けはもう日吉にもついていた。少年の心にもっとも辛く思えたのは、そうした美しい女性の群れから、奇異な眼で眺められることだった。
その頃、清洲の城にはまだ、室町大名の斯波義統が城主として住み、織田彦五郎信友がその家老だった。
城のお濠と、五条川を中心にして、ここには古い足利文化のにおいと、戦乱の中にも持ち続けて来た繁昌が、国郡第一の都府という名に恥じなかった。