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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

――で、彼は城下へ来ると、ふだんの望みや空想が一ばい大きく強く燃えて、

「今に! 今に!」

と心でつぶやき、

「どうしたら。どうしたら」

と、それのみ思って、いつも歩きつづけるのだった。

「ばか者っ」

と、日吉はふいに、人ごみの中でどなられた。繁華な辻を曲りかけた途端である。

乗換馬を曳かせ、槍を持った供の者を、十人以上もひき連れた馬上の侍に、手車をぶつけてしまったのである。

わら苞に巻いてある鉢だの皿だのは、くずれ落ちて粉々に砕けたし、日吉の体も、手車と一緒に蹌めいた。

「盲かッ」

「うつけ者めが」

馬も、従者も、砕けた瀬戸物の上を、そう罵りながら、ばりばり踏んで行ってしまう。往来の者も、誰ひとり、寄って来てはくれなかった。

割れた欠片を、拾いあつめ、また、手車を押して歩きながら、彼は人中の間のわるさと、憤りに血を熱くして、

「どうしたら彼奴らを、おらの前に土下座させてやれるだろうか」

と、幼稚な空想のなかで――しかし真剣に思いつめた。

だが、少し経つと、主人の家に帰ってからの叱言だの、於福の冷たい顔などが目に見え出し、大鵬の翔けるが如き大きな空想も掻き消えて、けし粒みたいな小さい心配にも、囚われてしまうのだった。