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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页

青空文庫

これには狸も困ったであろう。ある夜、甚内が林の下を通っていると、一疋の狸が出て来て、

「甚内さん、甚内さん」

と呼んだ。甚内は巫山戯(ふざけ)たことをする奴じゃ、一つ捕って汁にでも焚いてやろうと思って立ち停った。

「甚内さんにゃかなわんから、一つもうけさして仲なおりをしたいが、やってみませんか」

「何をやる」

「私の仲間が城下の浅井(富豪)のお嬢さんに憑いておるから、二人で紀州の花岡(名医)に化けて往って、仲間に退かしたら、うんと礼をくれるから、それをお前さんにあげます」

「何時往く」

「これから往こう、私に跟いてくるなら、すぐ往ける」

村から城下の町へは、陸路で往っても三里しかなかった。

「どうして往く」

と、甚内が聞くと、

「ちょっと待っておくれ、準備(したく)をする」

狸は傍の木の葉を五六枚とって、それを口で舐めて体に貼ったが、見る見るそれが衣服(きもの)になった。そして、木の根に這いまつわっている葛を引きちぎって胴に巻くと、それが帯になった。甚内は、狸が人に化けるには、木の葉を舐めて貼ると聞いているが、なるほどそうだなと感心して見ていると、狸はもう立派な医師(いしゃ)になって、薬籠さえかまえていた。