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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
「まあ子供っちゃなあ」と、大きな声を出して上り框に横向けに腰かけ、袂から赤いマリをそこへ取りだして頭を前に落すような格好で両手をついてあやまりながらも笑った。やる者もやる者、貰う者も貰う者、母親たちはお互に気の毒がり合った。おすえさんの母親が帰ってゆくと、
「ほんまに!」と、いねはそのマリを取り上げた。新しい絹糸を巻いた赤いマリはランプの光りを受けて艶やかな色をしていねの手にのせられている。そばで、フサエは小さくなって坐っている。先刻から土間に立っていた八重は遠慮っぽく母親の顔を見守り小さい声で、
「お母さん、うち、貞子さんとトミちゃんに筆あげたん、もろてこようか」
「え! 八重もひとにやったんかいや」
あまりいねの声が大きかったので、八重は思わず尻ごみをして、まるで打たれでもするかのように右手をこめかみの所へあげた。
「しようもない奴らじゃなあほんまに、カヤノも何ぞひとにやったんじゃろ」
すると赤ん坊のクニを負ぶっていたカヤノははげしく首をふり、
「やらへん、やらへん、約束しただけでまだやらへんで」
と、必死のような顔つきであった。
「実際まあお前らはほんまに――」