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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

ポンポン日付印を押し、手早く畳んで電報をまだ小さい配達人に渡しながら、

「御苦労じゃなあ」と、やさしい声をかけた。少しでも乱暴な言葉を吐いたりすると悪い知らせでも来るような気がした。

八重がいよいよ今夜の汽船で撫養の方まで父をさがしに行くことになり、その道順や手だてを同じ船商売である近村の日の出丸の家へ聞きに行ったりした。そこへひょっこり重吉からの便りが来た。割れるような歓声がハガキ一枚を取囲んであげられた。ぶじ、とたった二文字だけをはがきいっぱいに書き、表には岡山にて日向丸。

「うわあい、生きとった、生きとった。お父さん戻ってきたら叩いてやる」

実枝は大きく叫びながら上の畑へかけ上っていって、額に手をかざし、沖を向いていつまでも立っていた。次の日の夜おそく日向丸は無事に帰ってきた。重吉は別に病気ではなく、撫養から岡山へ移転する人があり、その荷物を頼まれて一働きしてきたのであった。余分の収入だというので皆に土産があった。一ばん上等が実枝の碁盤縞の洋服、それからクニ子には下駄、花子のころんころんと鳴る玩具などが出た。三十本十銭の筆だの、金の簪と時計の鎖と羽織の紐と指輪二つとで五十銭という金ぴかがぞろりと並んだ。