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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

あの実枝が若い母親を持つ他の子供たちに負けずにかけ回っているのを見ると、いねは何か誰にともなく申訳の立つような安心な気持にさえなれた。

いねは頭をさっぱりと梳かしてもらい、実枝が奇麗だという、去年着ていった糸織の着物を着、半幅帯を貝の口に結んでもらった。新しい手拭を被って、その日は試験場も休みである八重の手にからまるようにして歩いた。学校までは上り下りの坂があり、石ころの多い岩道はいねの歩行を円滑には運ばせない。歩きながらいねは、一年の間によほど自分の足が重くなっていることに気づいた。上りつめた所で校庭の万国旗が見え、子供たちの立ち騒ぐ声が聞える。道べりの畑の石垣に腰を下し、いねはいつまでもその方を見ては、立ち上ろうとせずに、不自由な左の手足をためすように振ってみたりした。覚りの早い八重はその顔つきでそれと察し、

「お母さんもう帰なんか。今日は天気が快すぎる。のぼせるといかんせに帰なんか」

「そうじゃなあ、そうしょうか」

いねは素直に帰る方へ向いて立ち上った。八重の肩に深く、ほとんど負ぶさるようにしてとりすがった。もう麦まきの終ったばかりの畑は、山の中腹まで青いものは何も見えない土一色であった。