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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

弟子は何度置いても食物をかれこれいうおかねを好かんといって続かず、千吉一人が夜の目も寝ずに窓の低い仕事場で働き通し、千吉のその小柄な体は痩せ細って、しなびた胡瓜のようであった。

「おかねに内緒で歳暮を持ってくるような甲斐性なし奴が」

そういいながらも次の日、重吉は帆布の前垂れに竹割りを持って千吉の所へ手伝いに行った。その後姿を見送り、誰もいなくなった家の中で、いねは子供の時のような心細さで部屋を眺め回した。重吉もなかなか戻ってこず、クニ子や実枝もいない留守の間に死んでしまいはせぬかという不安は、今はもうほとんど寝たきりの自分をひとり残して出ていく重吉への不満となって、いねはあのあきらめのよさを忘れて、泣き口説く女になっていた。泣いても笑っても一人である。淋しさを紛らせようと布団の下にある子供たちの手紙をとりだしては泣き、八重の写真を眺めては泣いた。八重はつい近ごろにその結婚生活とともに短い一生を終えたのであった。瀬戸内海の大崎島という灯台に結婚生活の第一歩を踏みだし、わずか二年足らずで終ったその一生。坂田からは自分が撮ったのだという写真をはがき型に引きのばして送ってきた。