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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
実枝が足音もぽそぽそと学校から帰ってくると、重吉はそれも知らずに座敷の真中に坐りこんで煙管をくわえたまま、煙草をつめるのも忘れたようにぽかんとして裏口の方を見ていたのであった。実枝は入口へは回らずに上の口から座敷へ上った。いねが寝ていた所だけ畳を替えたのが、冷たい感じで目に映る。
「ああ、畳やさん来たんよ」
学校道具を抱えたまま、実枝は一畳だけ新しいその畳の上で足踏みをした。畳は固く冷たかった。重吉もその方へ眼をやり、また煙管をはたく。
「お父さん裁縫ができたんで」
実枝は父親の前に風呂敷をほどいた。季節はずれの浴衣が出てきた。
「ほう、実枝が縫うたんかいや」
それを取り上げようともしない父親に、実枝は自分で着物をひろげてみせた。
「左のけんざきがようできとるいうて先生にほめられたんで。元禄の丸みもうまいことできたいうて、先生が皆に見せたんで」
いつも母親にいうとおり、実枝は報告した。いねが生きている時は、寝たままでも、その要所要所を丹念に見てくれた。そして先生にほめられたところは念を入れて先生と同じようにほめてくれた。だが男親には、けんざきが何やら判らない。