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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

実枝はどうしても割りきれぬもどかしいものを感じ、ひそかな溜息をした。少し出歯なミチはあまりしゃべりつづけて、時々かわいた上唇が歯ぐきにひっかかるようになるのを指でつまんではずしている。

「クニちゃんなんぞ、そやってひとりでいれてはあ、何ぼかのんきでえいのう」

そういうミチに実枝はだまって茶を汲んでだした。

一日おくれてカヤノが来た。ミチの親しみ方はクニ子や実枝たちへとはまたちがった、喧嘩をしながら育った者同士のへだてなさで、そのおしゃべりはカヤノが船を上るとから始まった。カヤノの子供のないのんきさをミチが羨やましがると、カヤノはカヤノの夫の作太郎が酒を呑まないだけに気むずかしくて気骨の折れる話をし、

「そのことなら実枝ちゃんが一ばんよう知っとるわなあ」

と、もうハンカチを顔にあてた。

「そやせに、うちもう一と月ほど帰んでやらへんつもりで喧嘩してでてきたんよ」と、涙をふいた。

実枝はわすれていたさまざまのことを思いだした。そういえば作太郎という男は、どうと取りたてて人前ではいえるほどのことでないいやなことを、毎日いっていた。食事の時にも魚を出せば肉がよいといい、肉を出せば野菜がよかったという。