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ほんじょりょうごく
本所両国
「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页
僕の知っていた大紙屋は封建時代に変りのない土蔵造りの紙屋である。その又薄暗い店の中には番頭や小僧が何人も忙しそうに歩きまわっていた。が、岡本さんの話によれば、今では店の組織も変り、海外へ紙を輸出するのにもいろいろ計画を立てて居るらしい。
「この辺もすっかり変っていますか?」
「昔からある店もありますけれども……町全体の落ち着かなさ加減はね。」
僕はその大紙屋にあった「馬車通り」(「馬車通り」というのは四つ目あたりへ通うガタ馬車のあった為である。)のぬかるみを思い出した。しかしまだ明治時代にはそこにも大紙屋のあったように封建時代の影の落ちた何軒かの「しにせ」は残っていた。僕はこの「馬車通り」にあった「魚善」という肴屋を覚えている。それから又樋口さんという門構えの医者を覚えている。最後にこの樋口さんの近所にピストル強盗清水定吉の住んでいたことを覚えている。明治時代もあらゆる時代のように何人かの犯罪的天才を造り出した。ピストル強盗も稲妻強盗や五寸釘の虎吉と一しょにこういう天才たちの一人だったであろう。僕は彼が按摩になって警官の目をくらませていたり、彼の家の壁をがんどう返しにして出没を自在にしていたことにロマン趣味を感じずにはいられなかった。