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ほんじょりょうごく
本所両国
「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页
ただ鉄の欄干の一部はみすぼらしい木造に変っていた。この鉄橋の出来たのはまだ僕の小学時代である。しかし櫛形の鉄橋には懐古の情も起って来ない。僕は昔の両国橋に――狭い木造の両国橋にいまだに愛惜を感じている。それは僕の記憶によれば、今日よりも下流にかかっていた。僕は時々この橋を渡り、浪の荒い「百本杭」や蘆の茂った中洲を眺めたりした。中洲に茂った蘆は勿論、「百本杭」も今は残っていない。「百本杭」はその名の示す通り、河岸に近い水の中に何本も立っていた乱杭である。昔の芝居は殺し場などに多田の薬師の石切場と一しょに度々この人通りの少ない「百本杭」の河岸を使っていた。僕は夜は「百本杭」の河岸を歩いたかどうかは覚えていない。が朝は何度もそこに群がる釣師の連中を眺めに行った。O君は僕のこういうのを聞き、大川でも魚のつれたことに多少の驚嘆をもらしていた。一度も釣竿を持ったことのない僕は「百歩杭」でつれた魚の何と何だったかを知っていない。しかし或夏の夜明けにこの河岸へ出かけて見ると、いつも多い釣師の連中は一人もそこに来ていなかった。その代りに杭の間には坊主頭の土左衛門が一人うつむけに浪にゆすられていた。