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ほんじょみぞれがし

本所霙河岸

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,115 字 · 24 页

青空文庫

「また銀太の御神輿が始まったぜ」

「担ぐんじゃあねえ本当のこった、兄哥たちゃあ知らねえだろうが、西脇先生は焼死んだんじゃあねえぜ、本当のこった、おらあ死骸を掘出したから知ってるがな、――肩から胸へかけてこう刀傷が……痛えッ」

ぴしッと頬を殴った者がある、右側の一人おいて隣にいた男だ。銀太は頬を押えながら怨めしそうに、

「なんでえ角兄哥、打つこたあ」

「なんでえじゃあねえ、詰らねえことをべらべらしゃべりあがって、頭梁はじめ組中の迷惑を考えてもみろ、もし関合いにでもなったらどうするんだとんちきめ、――みんな、いまのは銀太の御神輿だ、忘れてくんねえ」

「そんなこったろうと思ったよ」

喜三郎が盃を呷って、

「だがなんだぜ、西脇道場も師範代がやりてだから、焼けて六十日足らずというのに立派なものが建ったぜ、両側の地面を買って以前の倍にゃあなったろう」

「あの師範代は切れるからなあ」

「男振は良いし如才はなし、おれっちにまで腰が低いんだからできた人だ。それにお嬢さんがまた美人ときていらあ――いまに二人が御夫婦になりゃ霙河岸の名物夫婦だぜ」

話している右手に一段高くなって小座敷がある、対立を仕切にして五六組の客が飲んだり食ったりしていたが、その片隅から急に大きな喚声が起った。