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ほんじょみぞれがし

本所霙河岸

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,115 字 · 24 页

青空文庫

――松江侯が故人を愛していたそうで、いまの普請もその御手許金でできたものだという噂であるし、事実また門人の中には松江藩士が多かった。

朝から烈しい稽古の行われている道場とは、別棟になっている母屋のひと間で、亡き五郎左衛門の一人娘松枝が、客の老人とさっきから静かに対坐している。

老人は松江侯の用人で分部半兵衛といい、五郎左衛門の生前から親しくしている人物であった。

「――嫌いというなら仕方がない」

半兵衛は娘に云うような口調で、

「しかし嫌いでないならば考えてもらいたい、――横井は源流師範としての腕も慥かだし、門人たちの気受も好い、去年の御不幸のあとがこのとおり立派に再興したのも、むろん五郎左衛門殿の徳ではあろうが横井の手腕にもよると思う。……どうだ、あの男なら西脇の跡目として恥しからぬ人物と思うが、婿にとる気はないか」

「色々と、御心配をお掛けしまして、申訳ございませぬ」

松枝は静かに低頭しながら、

「お話はよく分りましたけれど、わたくしにとっては一生のことゆえ、しばらく考えさせて頂きとうございます」

「むろん五郎左衛門殿の一周忌でも済まぬうちは祝言もなるまい。