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ほんじょみぞれがし

本所霙河岸

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,115 字 · 24 页

青空文庫

今日はそのもとの気持を訊いてみたいと思ってきたのだ、よく考えてみて、承知なれば仮の盃をする運びにしたいと思う」

「いつも御深切に、ありがとう存じます」

そう云って松枝は静かに眼をあげた。

「それからあの、唯今のお話は分部さまお独りのお考えでございましょうか、それとも横井からお願い申したことでございましょうか」

「この話をするにはべつに頼まれた訳ではないがの」

半兵衛は笑いながら膝をあげた。

「しかし横井がそのもとにしんそこうちこんでいるのは事実じゃろ、酒も飲まず悪所通いもせぬ堅物のあれが、儂の前で顔を赧くしながら、――ははははは、いやこれは口止をされていることであったよ、半兵衛も老耄の気味じゃ、ではまた折をみて参るとしよう」

「いまいっぷく、粗茶を……」

「いや公用の途中じゃ、雑作をかけたの」

「――お帰りでございますか、失礼をいたしました」

松枝は半兵衛を送りに立った。

ややしばらくして戻って来たときは、横井千之助が一緒だった。――彼は色の白い眉の秀でた美男で、澄んだ眸子には犀利な光が溢れている、着物にも袴にも凝った渋味を見せ、言葉つきにも動作にも寸分の隙が無かった。