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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

と七十郎が呟いた、「あれは雁でしょう」

七十郎は盃を持った手を、空のほうへあげた。甲斐は書きつづけていた。

――同じく八月十五日。

と甲斐は行を改めた。

――老中より使者あり、酒井邸へまいる。一ノ関どの、涌谷どの、弾正どの、周防、大条、片倉どの、おのれとも七人。立花侯、奥山大学は不参。

老中がたは酒井(雅楽)侯、稲葉(美濃)侯、阿部(豊後)侯。またお側衆、久世(大和)侯であった。

酒井侯より試問、周防その答弁に当り、大略左のような問答があった。

酒、――むつの守が不行跡によって逼塞を仰せつけられ、さきごろ跡式の儀を申し出るようにとお沙汰があったところ、亀千代をもって家督を願い出たようであるが、これに相違ないか。

周、――亀千代をもって家督を願い出たに相違ございません。

酒、――亀千代は何歳になるか。

周、――去年(万治二年)三月の出生にて、当年二歳になります。

酒、――さような幼児に六十万石の仕置ができると思うか。

周、――この儀については伊達一門、一家宿老ども熟談し、入札のうえ決定したものでございます。

酒、――かような幼児に仙台六十万石の仕置はできない。故、政宗公の血統にて、十五歳以上になる者を改めて願い出るがよかろう。