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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

甲斐はおくみから刀を受取って、玄関へおりた。駕籠のそばには、矢崎舎人と成瀬久馬が待っていた。駕籠は二梃あり、うしろの駕籠を見ると、伊東七十郎がにやっと笑い顔を見せた。「考え直しましてね」と七十郎は云った。

「涌谷のじいさんに会うことにしました、里見の頑固おやじよりましですからな」

「むずかしいぞ」

「なにがですか」

「涌谷どのもそうだが、松山(茂庭周防)もきちんとした人だ、七十郎が招かれているならべつだが、さもないと席へとおるのもむずかしいぞ」

甲斐は駕籠に乗った。駕籠は二ついっしょにあがった。

「なに大丈夫です」と七十郎がうしろの駕籠で云った。

「じいさんは格式と儀礼を第一にしますからね、私はそこが嫌いなんだが、懐柔するにはやさしい相手ですよ」

「それは結構だ」

「貴方は信じないんですか」

「そんなことはないよ」

「よろしい、まあ見ていて下さい」と七十郎が云った、「きれいにまるめてみせますからね、まあ見ていて下さい」

甲斐は返辞をしなかった。

茂庭周防の住居は浜屋敷の中にあった。甲斐は約束の時間にややおくれて到着した。客間ではもう、酒宴がはじまっていた。

菊

その夜、茂庭家には、八人の客が集まっていた。