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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
「では御評定役がその衝に当るとして、お考えのほどをうかがいましょう」
「その話しはよそう」
「うかがえませんか」
「云えないでしょうね」と甲斐は微笑した、「まだ問題が起こってもいないのに、起こったらどうするかと云われても返辞のしようはない、この話しはよしましょう」
小十郎は黙って、食事をつづけていた。十左は顔を硬ばらせ、不満そうな、そして訝るような眼で、甲斐の横顔をみつめた。原田どのはこんな人ではなかった、と十左は思ったようであった。
七十郎はそらとぼけた眼つきで、甲斐と十左を眺め、また、そ知らぬ態で食事をたしている小十郎や、箸をはこびながら、気遣わしそうに、ちらちらと、甲斐のようすをうかがっている鳥羽の表情を、ひそかにぬすみ見ていた。
「惜しいところで幕か」と七十郎は呟いた、「もうひと揉み揉んでもらいたいんだがな、丹三郎、酒だ、原田家の朝粥は、なまぬるいふやけたような会だったが、こうなると捨てたものではない、原田さん、ひとつこれからは政治ばなしの禁制を解こうじゃありませんか」
「私も食事にしていただきましょう」と十左が云った。
それに対して、七十郎がまたなにか云おうとしたが、堀内惣左衛門が来て、甲斐に「鳩古堂がまいっております」