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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

とつぜん座がしんとなった。六人の評定役も、兵部少輔宗勝も、その一瞬、呼吸をとめた。勘解由の要求は重大であった。いま家中ぜんたいの関心は、金兵衛らの行為よりも、「上意」と云ったことのほうに集まっていた。

詮索すればなにが出て来るかわからない。

誰もがそう思った。暗殺された四人が、近年ずっと綱宗の側近に仕え、寵遇されていた事実はよく知られていた。なかでも坂本八郎左衛門と渡辺九郎左衛門とは、新参であるのに傍若無人なことが多く、一部の者からは憎まれてさえいた。したがって、四人が刺殺されたことは、かれらが「藩主逼塞」という大事に致らしめた奸臣であるという理由で、それほど問題にすべきこととは考えられなかった。

だが「上意」という言葉は軽くはない。

綱宗が藩主の位地をはなれ、世子がまだきまっていない現在、「上意」という表現はもちいられない筈である。それをあえて呼称したからには、それだけの理由がある筈である。これについては、朝粥の席で伊東七十郎も指摘したが、伊達家中ぜんたいが同じ疑問をもっているといってもよかった。

――金兵衛らの背後になにかがある。

――だがうっかりそれに触れてはならない。