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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

――火はおこりそうでございますか。

「あとを聞こう」

――奥山どのの言葉を、石川大和さまがなだめられ、安房さまが強い意見を述べられました。その結果、奥山どのお一人は、べつに誓紙を出すということに決着いたしました。

「入札の件は」

――これまた奥山どのから異論が出ました。

「どう申した」

――綱宗さまには、亀千代君という紛れもなき世子があられる。されば、誰をお世継にするかなどという論の起こる筈もなし、まして入札などとは以てのほかのことだ。自分はさような不道理なことは断じてせぬ、と云われました。

「みな黙っていたか」

――いちじは座が白けかえり、会議は中止かとみえましたが、やがて安房さまが、入札の件は江戸にある一門老臣の合議で定ったことだから、自分はそれに従うことにするし、おのおのも不服がなければ入札をしてもらいたい、吉岡どのは近日ちゅうに出府される予定だから、その意見は江戸邸へいって述べられるがよかろう、こう申されました。

「大学はどうした」

――入札をしました。

「なんと」

――意見は江戸へまいってから述べるが、御一同が入札をなさるなら、自分もいちおう入札を致そう、ということでした。