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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
次郎は、しかし、そうした罵声の中で、微塵も興奮した様子を見せなかった。こうした場合にいかに振舞うべきかを、彼は彼の幼いころの生活から見事に学びとっていたのである。彼は罵声が発せられるごとに、しずかにその方に眼を転じて、無言のままじっとその声の主を見つめた。その眼は冷然と光っており、相手が視線をそらすまでは微動だもしなかった。五人、十人、十五人、と彼がこうしてつぎつぎに相手を見つめて行くうちに、室内は次第に静かになって来た。そして、しまいには、息づまるような沈默の中に石像のようにつっ立っている彼をかこんで、無数の眼が、あるものはおびえたように、あるものは強いて冷笑するように、またあるものはあやしむように、光っているだけであった。
次郎はその様子を見すますと、おもむろに言った。
「君らが何のためにそんなひどいことを言うのか、僕にはよくわかっている。むろん、君らの中には、僕が処罰をおそれて卑怯になったと、本気にそう思って怒っているものもいるだろう。そういう人に対しては、今は何も言わない。僕が何を考えているかは、これからの僕自身の行動で説明するより外にはないからだ。