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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

「泰山鳴動して鼠一疋も出なかったね。」――ある日、彼は俊三にそんなふうにひやかされた。

「仕方がないよ。」

「ずいぶん評判がわるいね。」

「僕がかい。」

「そうさ、いろんなこと言っているぜ。」

「ふん……」

「知ってる?」

「知ってるさ。」

「何でも?」

「知ってるよ、何でも。」

「だって恋人があるってことまで言っているんだぜ。多分道江さんのことだろうと思うんだが。」

「ふん……」

次郎は顔を赤くしながらも、軽蔑するように言った。

「それも知っていたんかい。」

「知っていたよ。」

「知っていて、よくがまんしてるね。」

「言わしとくさ。面倒くさいよ。」

「だって、そんなこと、だまっていていいんかなあ。」

「わるくたって、仕方がないさ。どうせ馬田なんかが言いふらしたんだろう。僕は当分あいつらを相手にせんよ。」

「相手にしてはわるいんかい。」

「僕には考えがあるんだ。」

次郎は面倒くさそうだった。

「どんな考えだい。」

「うるさいね。今にわかるよ。」

俊三はぬすむように次郎の顔を見て、にやりと笑った。そしてすぐ蚊帳にもぐりこんだが、枕に頭をつけながら、彼は小声で口ずさんだ。

「英雄の心緒みだれて麻の如しイ。