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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

彼ははっとして思わす立ちどまった。大山も立ちどまって彼をふりかえったが、その顔は相変らず満月のように明るかった。次郎はその顔を穴のあくほど見入って、ふかいため息をついた。

「どうしたい?」

大山の眼玉がぱちくりと動いた。

「うむ――」

次郎はそれだけ言ってまた歩き出した。大山も默って歩き出した。二人はそれっきり、しばらく口をききあわなかった。

朝倉先生の家に行く曲り角まで来ると、次郎は立ちどまって、

「僕、失敬する。こっちに用があるんだ。」

すると大山も立ちどまって、

「朝倉先生のうちに行くんか。」

「そうだよ。」

次郎はためらいながら答えた。

「そんなら、僕も行こう。」

大山は先に立って歩き出しそうにした。次郎は、大山といっしょに朝倉先生をたずねるのが決していやではなかった。しかし、今日はなぜかひとりでたずねてみたかったのである。で、彼はつっ立ったまま、返事をしぶっていた。

すると大山は、また眼をぱちくりさせながら、

「きょうは、僕いっしょに行ってはわるいんか。そんなら、あすにするよ。僕はただあいさつするだけなんだから。――じゃあ、さよなら。」

水の流れるような自然さだった。