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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

とおっしゃって、まるでとりあわれなかったんだ。」

次郎の眼はまたひとりでに伏さった。重苦しいほどの幸福感で、急に胸がいっぱいになったのだった。

「荷物がこんなに早く片づいたのも、君のお父さんに何かとお世話を焼いていただいたおかげなんだよ。永いことこの家に住んでいたんで、がらくたあだいぶたまっていたが、それも君のお父さんが一切引きうけて、古道具屋に売って下すったんだ。あんなことにもお心得があるんだね。」

次郎は幼ないころに経験した自分の家の売立の日のことを思い起し、ちょっとほろにがい気持になったが、一方では、そんな場合の父の超然とした顔付を想像して、何かユーモラスなものを感じた。

「父はそんなことには以前からなれているんです。」

「そうかね、元来商売のお上手な方でもなさそうだが。」

「商売は下手です。ですから、きっと安く売ってしまったんでしょう。」

二人は声を立てて笑った。

「安くも高くも、とにかくがらくたの始末をつけていただいて助かったよ。それで、あとは、このテーブルと二階の君たちの文庫の始末なんだがね。」

「文庫はまだあのままですか。」

「あれは君たちのものなんだから。