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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
列車はまもなく発車した。
機関車が生徒たちのまえを通るころは、速力はまだごくのろかった。しかし、客車が二台三台と通るにつれて、それは次第にまして行った。次郎がつぎつぎに近づいて来る客車の窓を注意ぶかく見つめていると、五台目の中ほどの窓から、あわてたように上半身を乗り出した人があった。それはまぎれもなく朝倉先生だった。そしてその同じ窓から、夫人も窮屈そうに、顔だけをのぞかせていた。
次郎は夢中になって帽子と手拭をふった。列車はもうかなりの速度を出していたので、先生夫妻の顔が生徒たちの並んでいるまえを通るのはすぐだった。二人は何度も何度も顔をあげさげして、生徒たちに会釈した。しかし、一人はなれている次郎には、まだ気がついていないらしい。
「先生!」
次郎は二人の顔が自分の直前に来る少しまえに、たまりかねたように叫んだ。それも、しかし、車輪の音と群集の叫び声との中では、何のききめもなかった。二人の眼は、依然として生徒の群にそそがれたまま、二間、三間と通り過ぎて行った。
「せーん、せーい。」
次郎は、もう一度根かぎりの声で叫び、帽子と手拭をにぎった両手を、上体ごと、大きく左右にふった。