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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
人間の冷静な理知に訴えるだけの力のない人が、窮余の策として用いる手段だからね。それに誇りを感ずるなんて考えてみると滑稽だよ。いや、滑稽ですめば結構だが、その誇りがだんだん昂じて来ると、おしまいには、問答無用で総理大臣にピストルをつきつけるようなことにもなりかねないんだ。自分で自分のお調子にのるのは恐ろしいことだよ。」
次郎は、血書のことを思いついてそれを書き終るまでの自分の心の動きを、あらためてこまかに反省してみた。すると父の言っていることに何か否定の出来ないものがあるような気がし出した。しかもこの反省は、次第に彼を彼の子供の時代にまで誘いこんで行ったのである。そこには、がむしゃらな反抗や、子供らしくない策略などといっしょに、ほめられたさの英雄的行為や芝居じみた親孝行などが、長い行列をつくっていた。父は自分のことを何もかも知っている。自分ではもうとうに克服し得たつもりの弱点でも、それがまだ少しでも尾をひいている限り、父の眼にははっきりとうつるのだ。そう思って彼はひとりでにうなだれてしまった。
しばらく沈默がつづいた。机の上の枕時計はもう十二時をまわっている。