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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

ただ彼がいくらか緊張したように見えたのは、論議もだいたいつきて、座長の田上が、「では、この問題の決をとりたいが、多数決できめてもいいのか。」と相談をかけた時であった。彼はその瞬間、急に首をもたげて田上を見、つづいて新賀を見た。そしてまさに立ち上りそうな姿勢になった。しかし、彼が立ちあがるまえに、新賀が発言したので、彼はそのまま腰をおちつけて、また首をたれた。

新賀は言った。

「決をとるのはまだ早い。僕はそのまえに諸君に見せたいものがあるんだ。」

みんなの視線を一身にあつめながら、彼はどたどたと大きな靴音を立てて教壇に上った。そして座長席のわきに立つと、胸のかくしから一枚の紙を引き出し、自分の顔のまんまえにそれをひろげた。それは次郎の書いた血書だった。

「見えるか。」

彼は血書を自分の胸のあたりまでさげ、その上からみんなを見まわした。みんなはのびあがるようにしてそれを見た。田上も座長席から首をつき出し、下からそれをのぞいた。ただ次郎だけが、いくらかほてった顔をして眼を机の上におとしていた。

「これは血で書いたものだ。遠方からは字がよく見えないだろうから、僕が読んでみよう。