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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
」
新賀は、そう言いながら、血書をうらがえしにして自分の方に向け、一句一句力をこめてそれを読んだ。そして読み終ると、またそれをうち返しにしてみんなの方に向け、もう一度室じゅうを見まわした。
みんなはしいんとなって一心に血書の方に眼を注いでいる。
「君が書いたれか。」
うしろの方の窓ぎわに立っていた一人が、かなりたってからたずねた。
「僕じゃない。」
「誰だ、書いたのは。」
今度は、次郎のすぐまえにいたひとりがたずねた。次郎は、はっとしたように顔をあげたが、すぐもとの姿勢にかえった。
「この中にいる一人が書いたんだ。しかし名前は言う必要がない。それは、これを書いた人は、これがみんなの総意だと信じきって書いたからだ。僕たちはただその人の熱意を生かせばいいんだ。」
みんなは、探るようにおたがいに顔を見合わせたが、すぐまた血書の方に視線を集中して默りこんでいる。
「どうだ。いやしくも人間が血をもってつづった文字だ。これを生かすことに不賛成はあるまい。」
むろん誰も異議を唱えるものはなかった。それどころか、これまでストライキ論を中心にざわついていた空気がすっかり沈静して、その底から一かたまりになった大きな力が、むくむくと盛りあがって来る、といった気配だった。