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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

シリアス過ぎるくらいシリアスである。普通人の愛慾心理も押詰めて行ったら、こういう境地にも到達するのであろうかとは思われた。

谷崎君の他の小説についてそう思ったことはなかったが、この小説の筆致は、私をして雨月物語を連想させた。しかし、上田秋成はあの時分の作家だから、こういう題材を扱っても、お座なりの道徳的訓戒をくっつけるくらいで、何でもなしに事件と光景を描叙するだけであったであろう。谷崎君は概して心理研究者の態度を執っている。武州公をして自己反省をさせている。「心の奥底に、全く自分の意力の及ばない別な構造の深い/\井戸のようなものがあって、それが俄かに蓋を開けた」など、作者の説明が少くない。作者の心に映る幻影を幻影として写す秋成の態度と、心理批判を棄て得ない谷崎君の態度に、私などは時代の相違を見るので、必しも一を是とし一を非とするのではない。武州公は現代人の姿をもって現われているのである。

「首に嫉妬を感じ」「生きて彼女の傍にいるという想像は一向楽しくなかったが、もしも自分があのような首になって、あの女の魅力の前に引き据えられたら、どんなに幸福だか知れない」