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しんだちどり

死んだ千鳥

吉川 英治

「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页

青空文庫

『はての? ……。年齢は』

『ちょうど、旦那様ぐらいなお年頃で、背は、もちっと高く、薄あばたが顔にあって、ずんと、田舎くさいお武家でござりましたが』

『えっ、薄あばたのあるわし位な年頃の侍だと。して、袖の紋は』

『御紋は気がつきませんでしたが、言葉の訛りが、何処やら旦那様のお話し振とよう似ておりましたが』

『あっ……』愕然としたように――然しさりげなく、

『そうか、いや有難う』

賛五郎は半町ほど夢中で歩いていた。

(大牟田公平だ。――薄あばたがあって熊本訛りのある同じ年頃の侍といえば、あの公平に相違ない!)

暴風のように、種々な想像がわき上ってくる。

機も機でもある。

『……さては、いつの間にか、彼奴と文通を交して、再び元の男の手へ逃げ帰ったのではあるまいか』

そう邪推もできるし、

『いやいや、彼女に限って』

と、今朝の置手紙の真心らしい文言を思い出したり、日頃の墨江を考えて打ち消してもみる。

然し、どっちにしても、かねがね彼のまま指を咥えて黙視しては居まいと考えていた大牟田公平が、出府して、自分たち夫婦の居所を突きとめているからには、これはもう、無言の果し状をつけられているのも同様である。