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しんだちどり

死んだ千鳥

吉川 英治

「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页

青空文庫

墨江は、突然、嗚咽するように訴えて、白い指先を地へつかえた。

『何ですか一体……。この半蔵にそんな願いがあるというのは』

『厚顔ましい女と、きっと、御立腹になるかも知れませぬが……もしっ、生涯、夫婦が御恩に着ますから……』

『ははあ、分りました。頼母子講の金を、その儘、貸してくれという事ですな』

『虫のいい奴と、さだめし、お蔑みでございましょうが、良人を世に出したいのでございます。良人も、あなたのお気持を知れば、死を賭しても、きっと京都の通し矢で、一の額を上げずにはおきませぬ。彼の人は、元々、弓の家に生れているのです。お兄上は、細川家で四百石の御師範、もし、京都の通し矢の事が聞えれば、御勘気も免れ、五十両や百両のお金は、その上ならばどうにでもなるお家がらでもございます。決して、あなた様に、御損失はおかけ致しませぬ程に……』

『まあ、待って下さい。成程、昨夜お邪魔に伺った時、それとなく、御融通してもよいような事は云ったが、何しろその金はまだ握っていない話の事だ。――これからちょうど、その無尽の競り札が始まろうというところ、身共の手に、首尾よく札が落ちたら、その上で御相談しようではないか』