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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
この間から賛五郎は考え初めていた。沈湎と腕拱みした儘、いつぞやの雪の日からまだ下駄を穿いて一歩も外へ出ていなかった。
――その雪の日であった。
この江戸へ来てから知己になった浪人仲間の友達が三、四人打ち連れて来て、
(どうだ、貴公も行かないか。ぜひ一口入れ。吾々が世に浮かび出る千載の一遇が来たのに、その機会を逃がすなどという法があるものか。――なあ御新造、そうじゃないか)
と、いう熱心な勧め方。
良人の友人達から、そう云われると、墨江は、良人以上、乗り気になって、
(そういう事なら、ぜひ共、主人もお加えくださいませ。とかく良人は引っ込み思案で、今日迄にも何遍、仕官の口を外して居りますことやら――)
などと口を極めて云った。
それ程迄に、妻も云うので、
(行こう、今度は)
と賛五郎も遂に、同行を約した。
出発は二月初旬。もう日は迫っている。
江戸表から立つ仲間は、ざっと十名ぐらいになるだろうとの見込だった。そして、約二ヵ月程、京都の竹林院の道場で稽古を励み、そして悠々、静養の上で、四月下旬の三十三間堂の競い矢に立つという予定なのである。
浪人仲間の一部で、