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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
こう。こう。お出でなされ。藤原南家郎女の御魂。
こんな奥山に、迷うて居るものではない。早く、もとの身に戻れ。こう こう。
お身さまの魂を、今、山たずね尋ねて、尋ねあてたおれたちぞよ。こう こう こう。
九つの杖びとは、心から神になって居る。彼らは、杖を地に置き、鬘を解いた。鬘は此時、唯真白な布に過ぎなかった。其を、長さの限り振り捌いて、一様に塚に向けて振った。
こう こう こう。
こう言う動作をくり返して居る間に、自然な感情の鬱屈と、休息を欲するからだの疲れとが、九体の神の心を、人間に返した。彼らは見る間に、白い布を頭に捲きこんで鬘とし、杖を手にとった旅人として、立っていた。
おい。無言の勤めも此までじゃ。
おお。
八つの声が答えて、彼等は訓練せられた所作のように、忽一度に、草の上に寛ぎ、再杖を横えた。
これで大和も、河内との境じゃで、もう魂ごいの行もすんだ。今時分は、郎女さまのからだは、廬の中で魂をとり返して、ぴちぴちして居られようぞ。
ここは、何処だいの。
知らぬかいよ。大和にとっては大和の国、河内にとっては河内の国の大関。二上の当麻路の関――。
別の長老めいた者が、説明を続いだ。