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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

郎女様。御覧じませ。

竪帳を手でのけて、姫に見せるだけが、やっとのことであった。

ほう――。

何が笑うべきものか、何が憎むに値するものか、一切知らぬ上には、唯常と変った皆の姿が、羨しく思われた。

この身も、その田居とやらにおり立ちたい――。

めっそうなこと、仰せられます。

めっそうな。きまって、誇張した顔と口との表現で答えることも、此ごろ、この小社会で行われ出した。何から何まで縛りつけるような、身狭乳母に対する反感も、此ものまねで幾分、いり合せがつく様な気がするのであろう。

其日からもう、若人たちの糸縒りは初まった。夜は、閨の闇の中で寝る女たちには、稀に男の声を聞くこともある、奈良の垣内住いが、恋しかった。朝になると又、何もかも忘れたようになって績み貯める。

そうした糸の、六かせ七かせを持って出て、郎女に見せたのは、其数日後であった。

乳母よ。この糸は、蝶鳥の翼よりも美しいが、蜘蛛の巣より弱く見えるがよ――。

郎女は、久しぶりでにっこりした。労を犒うと共に、考えの足らぬのを憐むようである。刀自は、驚いて姫の詞を堰き止めた。

なる程、此は脆過ぎまする。

女たちは、板屋に戻っても、長く、健やかな喜びを、皆して語って居た。