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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
だが、そんなことは、郎女の心には、間題でもなかった。
おわかりなさるかえ。これこう――。
姫の心は、こだまの如く聡くなって居た。此才伎の経緯は、すぐ呑み込まれた。
織ってごろうじませ。
姫が、高機に代って入ると、尼は機陰に身を倚せて立つ。
はた はた ゆら ゆら。
音までが、変って澄み上った。
女鳥の わがおおきみの織す機。誰が為ねろかも――、御存じ及びでおざりましょうのう。昔、こう、機殿のからのぞきこうで、問われたお方様がおざりましたっけ。
――その時、その貴い女性がの、
たか行くや隼別の御被服料――そうお答えなされたとのう。
この中申し上げた滋賀津彦は、やはり隼別でもおざりました。天若日子でもおざりました。天の日に矢を射かける――。併し、極みなく美しいお人でおざりましたがよ。截りはたり、ちょうちょう。それ――、早く織らねば、やがて、岩牀の凍る冷い冬がまいりますがよ――。
郎女は、ふっと覚めた。あぐね果てて、機の上にとろとろとした間の夢だったのである。だが、梭をとり直して見ると、
はた はた ゆら ゆら。ゆら はたた。
美しい織物が、筬の目から迸る。
はた はた ゆら ゆら。